作編曲家 山田悠人 公式Webサイト

【コラム】演奏会とクラウドファンディング

私が代表を務めるYMDミュージック合同会社は、2022年8月3日から8月31日までの期間中、クラウドファンディング(以下CF)を実施しました。このCFは、演奏会の継続かつ発展を目的としていました。
演奏会関連のCFは、大規模なイベントで多額の資金が必要としている際、融資とは別の資金調達の手段として活用されることが多いと思います。逆に、今回のような決して規模が大きいとは言えない演奏会でCFを活用することは珍しいと思います。

音楽家さんで『CFに興味があるけど、手を出しづらい』とか『CFってどうなの?』と思っている人がいらっしゃると思います。今回実施したCFを例に、参考になるであろうことをまとめたいと思います。
随時加筆修正を行う可能性があります。予めご了承下さい。

Contents

クラウドファンディングとは

クラウドファンディングとは、インターネットを通じて、不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達することです。CFのリターン(お礼)として、起案者が準備した物品やサービス、権利を購入していただくことで資金を調達します。
CFは、資金調達の役目が注目されがちです。しかし、他にも特徴があります。
CFは、多くの人の目に触れる機会を作ることにもなります。また、プロジェクト内容に共感した人が情報を主にインターネット上でシェア(共有)することによって情報が広がる、いわゆる拡散性があると言えます。
そして、クラウドファンディングは、誰でも実施することができ、誰でも支援を受けてチャンスを掴める可能性に繋げることができます。

そもそもどうして演奏会を開催するのか、演奏会に必要な心構えとは

私は、演奏会は特別な空間であり、また、特別な時間であると考えています。その空間で、現実を忘れて、演奏者による演奏を肌で感じ、心から音楽を楽しんていただく時間を過ごしてほしいと願っています。
YMDミュージックが主催する演奏会は、出版作品を中心に取り上げ、作編曲家と演奏家が密接に連携して演奏会を作り上げ、出版作品の魅力をお伝えします。時には、今を生きる作編曲家の新作初演、つまり、新しく生まれた作品を初めて世に披露します。音楽文化の発展に寄与する機会ともなります。
そして、演奏会では音楽を通じて癒やしを提供します。つまり、演奏会は、豊かな生活に必要不可欠だと言えます。

発表の方法は時代の変化に伴い、多様化しています。例えば、オンライン配信は、インターネット環境さえあれば家や好きな場所で気軽に楽しむことができます。2020年より猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の影響を受け、演奏会の自粛が要請された時期もありました。その頃から、オンライン配信での演奏会が増えてきました。
私は、演奏会を開催するならば、オンライン配信とは異なる良さを提供しなければならないと考えています。
演奏会は、演奏者(主催者)が指定する会場までお客さんに足を運んでいただきます。足を運んでもらうことは大変なことです。会場に来ていただいたからには、会場で普段と違ったひとときを過ごしてもわなければならないと思います。つまり、おもてなしが重要だということです。
音楽だけを提供したいならば、オンライン配信の方が適していると思います。しかし、演奏会を開催するならば、会場に着いてから退場するまで充実した時間を過ごしていただく、つまり、演奏会では「充実した音楽とサービス(空間、時間)を提供する」ことが重要です。
仮に、良い演奏を披露したとしても、スタッフの対応が悪かったら、お客さんはどう思うでしょうか?プログラムが紙1枚と内容が充実した冊子のどちらが喜んでもらえるでしょうか?その他、サービスについて考える必要があります。
特に、音楽家が主催する演奏会だと、演奏以外の点に手が回っていないことがあります。演奏することと演奏会を企画・運営することは分けて考えるべきです。もちろん、私自身も日頃から気をつけています。

話が脱線してしまいますが、チケット代には演奏に対する対価だけでなく、サービスに対する対価等も含まれると考えるべきだと思います。

クラウドファンディングの目的

演奏会の収入源のひとつであり、馴染みがあるのはチケット収入です。チケット価格は、来場を促すため3000円〜5000円程度です。しかし、チケット収入は会場定員×チケット料金の積であり、限界があります。演奏会は、チケット収入だけでプロの公演を黒字化するのは難しく、様々な収入源を作ることで収支を成り立たせます。
その1つとして、今回はCFを実施しました。
CFで重要なことは、プロジェクト(今回の場合、演奏会継続開催と発展)の趣旨に共感していただくことです。私は、上の通り、音楽やサービスを提供する場所として充実した演奏会を開催するには、多くの方の応援が必要不可欠と考えました。これを継続するとなれば尚更です。CFでは、演奏会の必要性、CFによって得られる成果となる音楽文化発展の寄与等について、共感を求めました。
その結果、CFを実施したことによってご支援を募ることが出来ました。支援を受けたことによって、例えば、今まで費用を削ってた部分に費用を充てることが可能になります。そして、継続と発展のために、様々な形で活用することができます。
他にも、様々なメリットがありますので、ご紹介致します。

情報の拡散手段として

演奏会には、2つのパターンがあると思います。1つは、知人や関係者、会員といった限られた人を対象にしたクローズドな演奏会です。この演奏会の宣伝方法は、対象者に直接連絡をすればよく、情報を拡散する必要はありません。
それに対して、不特定多数の人を対象としたオープンな演奏会では、広報活動、いわゆる宣伝が重要になってきます。YMDミュージックが行っているすべての事業は、不特定多数の人を対象としており、常に効果的な宣伝方法を模索しています。このCFでは、情報の拡散性を利用し、演奏会情報の拡散も狙いました。また、CFのプラットフォームを活用する人が情報を目にするので、これまでの宣伝手法では情報が届かなかった新たな層のファン獲得も狙いました。
多くの音楽家が何かしらのSNSに登録し、演奏会情報を発信し、集客につなげていると思います。しかし、フォロワーだけだと情報の届く範囲がインターネットいえど限界があります。CFのプロジェクトページに演奏会情報の紹介ページとしての役割も持たせることで、CFのプラットフォームに登録した方が閲覧する可能性があり、ターゲットが広がります。今回のプロジェクトの場合、毎日約200PVのアクセス実績がありました。

多くの人が対象となる演奏会であることをアピールする方法として

演奏会に興味を持ってもらうことはとても重要です。しかし、足を運べない距離の場所で開催される演奏会は、関係のない演奏会として興味を持ってもらえないことがほとんどです。
最近では、オンライン配信を活用した演奏会が開催されており、全国どこからでも演奏会を楽しむことが出来ます。YMDミュージックでは、全国各地からでも演奏会に興味関心を持っていただくために、オンライン配信(アーカイブ)に加え、CFを実施しました。”演奏会に興味関心を持っていただく”という点が重要であり、全てのリターンに演奏会に関連するものとして、当日に配されるプログラムを含める等、工夫をしました。

演奏会以外の情報宣伝の機会として

YMDミュージックは演奏会事業以外に、楽譜出版事業、演奏動画配信事業等を行う企業です。このCFのリターンを活用し、リターンに他事業に関係するものを盛り込み、演奏会以外の事業を知っていただく機会にしたいと考えました。今回のプロジェクトでは、出版楽譜を販売しているYMD MUSIC WEB SHOPで使えるデジタルギフト券をリターとして設定しました。購入金額以上の利用が可能なので、リターンとして購入し、楽譜販売につなげることが可能になりました。

クラウドファンディングの難しいところ、アドバイス

CF実施期間中はCFの対応をする必要があります。特に、支援者となった方とのやり取りは欠かすことが出来ません。これは、片手間で行なうには難しく、可能ならばCF担当者を独立して設けることが望ましいです。難しい場合、担当を分担したりすることで効率的に行うことを考えると良いでしょう。
また、開始から終了まで、一定のモチベーションを保つ必要があります。私の場合、新しい情報を発信する活動報告を定期的に行い、安定した広報を行いました。その内容は、演奏会の魅力に関する内容でしたので、演奏会の宣伝も兼ねていました。

とはいえ、CFを経験しなければ気づくことが出来ないことはたくさんあります。
今回挙がった反省点をまとめますので、参考にして生かしていただければ幸いです。

現実を見ながら、アグレッシブなプロジェクト内容を盛り込み、閲覧者の興味関心を惹き付ける文章を書く

私自身2度目となるCFだった今回は、1回目の反省を活かすことが出来ました。しかし、堅実な路線を走りすぎたとも感じており、盛り上がりや面白みに欠けてしまったと感じています。
プロジェクトページの文章も、現実的な内容ばかりで、内容のおもしろさが欠けてしまい、ページから離脱した人がいたかもしれないと考えています。もっと興味関心を惹き付ける書き方をすべきだったと反省しています。

CF限定リターンを入れた方が良い

今回のCFでは、CF以外でも購入できたり、サービスを受けることができるものがほとんどでした。「次回公演の編曲リクエスト権」を設定していましたが、敷居が高い部類に入っていました。支援を考えていても『また別の機会にしよう』と考えた方がいらっしゃったと聞きました。例えば、CF限定デザインのグッズ(特別デザインでもOK)、CF限定サービスがあるとよかったと反省しています。ちなみに、CF限定価格(組み合わせ値引き等)は効果が薄かった点も挙げておきます。

音楽を生かしたリターンを入れたほうが良い

本CFは、リターンの面白みも欠けていたと反省しています。今回の場合、内容は大きく分けて「チケット」「グッズ」「プログラム」「編曲リクエスト」「広告宣伝」でした。『音楽関係のCFだから音楽に関わるリターンをもっと入れたほうが良いのでは』というご意見をいただきました。編曲リクエストは音楽に関わるとはいえ、敷居が高かったと思います。例えば、出張演奏、音源プレゼント等があれば良かったと考えています。

音楽家が行うクラウドファンディング

『音楽家は音楽のことだけを考えれば良い』
そう考えている人もいるかと思いますし、私のスタイルが音楽家とは言えないと思う人がいることも承知しています。
しかし、音楽を仕事にするフリーランスや経営者なら、自分や友人の身を守るためにも、社会人として生きていく上で必要な音楽以外のことも考える必要があると考えています。
CFは成功または失敗という結果がつくため、リスクがあると考える方もいらっしゃると思います。私は、フリーランス(経営者)の場合、「フリーランス(経営者)になる」という人生を賭けた挑戦をしており、それと比べたらCFの挑戦は些細なことだと思っています。むしろ、CFを通じた新たな出会いや信頼関係の構築、結果から学べることの方が多く、貴重な機会になりました。

まとめ

以上より、CFは、次のような方に適していると思います。

  • 特定少数ではなく、不特定多数の人を対象とした音楽活動をしたい方。
  • 日本全国を対象にした音楽活動をしたい方。
  • CFのプラットフォームを活用し、新たなファンを獲得したい方。また、普段関わることの少ない層のファンを獲得したい方。
  • CFで資金を募り、発展した内容の演奏会を企画を目指す方。

クラウドファンディングでの支援を受けて実施される演奏会のご紹介

今回、CFでのご支援を受けて、下記の演奏会を実施致します。
ぜひご来場下さい!

EMOTION!ピアソラとサクソフォーン作品を中心に

・公演日時
9月14日(水)18時30分開場、19時開演、21時終演予定
・会場
管楽器専門店ダク スペースDo
・演奏
吉尾悠希、馬場春英、山本愛花音
・作編曲
山田悠人、山本愛花音
・演奏曲
春、花咲くプラムの木(山田悠人)
願い(山本愛花音)他
・チケット
一般3,000円、学生2,000円
・プレイガイド
チケットぴあ(Pコード:224155)

AFFECTION!2本のサクソフォーンとピアノでお送りする、愛の調べ

・公演日時
2022年11月12日(土)
18時30分開場、19時開演、21時終演予定
・会場
管楽器専門店ダク スペースDo
・演奏
吉尾悠希(サクソフォーン)、近田めぐみ(サクソフォーン)、馬場春英(ピアノ)
・作曲、編曲
山田悠人
・演奏曲
空の旅(山田悠人)
マ・メール・ロワ(M.ラヴェル/山田悠人)
愛の挨拶(E.エルガー/山田悠人)

・チケット
一般3,000円、学生2,000円
・プレイガイド
チケットぴあ(Pコード:224892)
※2022年9月末よりCF実施予定

YMDミュージッククラウドファンディング一覧

演奏会とCFについて、いかがだったでしょうか?
CFを実施して共感を集め、より充実した演奏会開催のお役に立てれば幸いです。