作編曲家 山田悠人 公式Webサイト

【コラム】作編曲委嘱料の構造と考え方

こんにちは! 今回は日常の活動で気づいた事をブログに綴ってみたいと思います。

私のような作編曲家は楽曲を制作する事で皆様(社会)の役に立ち、それに対価を頂いて生活をしています。 しかし、作曲や編曲の委嘱料がどれくらいなのか、多くの方が知らないのが実情かと思います。 『作編曲家に新作を委嘱してみたい、でも、金額の想像がつかない』とよく相談を受けます。 インターネット検索をすると、数千円という話から数百万円という話まで様々な情報が見つかります。 私以外の作編曲家さんのホームページや作編曲業務を請け負う会社を調べても、ほとんどが見積もり制、または大まかな料金を示すにとどまっています。

作曲や編曲のような制作系の仕事の場合、一律の価格設定をすることはとても難しいと思います。 相場金額というのも大まかにしか無いかと思います。 私も作編曲の委嘱料金は見積もり制を採用しており、委嘱者(クライアント)のお話を聞いた上で金額を見積もり、提示しています。

私の知っている限りでは、委嘱料の算出は以下の方法が大半を占めていると思います。
(1)作品の演奏時間(1分あたり、3分あたり等)に単価を定めて、時間と編成から算出する方法
(2)1ページあたりの単価を定めて、時間と編成から想定ページ数を算出する方法
(3)1小節あたりの単価を定めて、小節数と編成から算出する方法
(4)編成別に作品難易度に金額帯を定めて、条件に応じて金額帯から算出する(労力等に見合わない場合は調整する)方法
(5)作業にかかる想定日数から算出する方法
需要の多い委嘱(吹奏楽コンクール、アンサンブルコンテスト等)は固定金額プラスアルファとしている方もいらっしゃるようです。

私の場合、作曲は(1)と(2)で算出した料金を比較した金額で、編曲は(2)の算出方法で、それらにオプション業務、諸経費を加えて見積もりを出し、さらに(5)で算出した料金を比較して決めています。

まず、委嘱に先立ちどのような条件で作るかを確認します。
・編成
・演奏時間
・希望納品日
これらが見積もりを算出するために重要な要素となります。 他にも、使用可能な楽器や初演のイメージ、楽曲のイメージ等も併せて確認します。

私のような吹奏楽や管弦楽、室内楽の作編曲の場合、必ず楽譜制作が伴います。 私の場合、基本的にフルスコアを1ページあたり3000円〜(税抜、以下同様)、パートスコアを1ページあたり2000円〜とし、原曲の楽譜や日頃の楽譜制作で得た感覚を元に完成楽譜の想定ページ数を算出します。 作編曲家は曲の規模から制作前段階でどれくらいのページ数になるのか想定することは出来ると思います。 曲の規模によって楽譜制作の時間が変わりますので、制作にかかった(働いた)時間分の料金をいただくにはこの計算がご理解いただきやすいと考えています。

『ページ数で計算するならば、五線の大きさを大きくする等して意図的にページ数を増やして料金を上げることが出来るのではないか?』とお考えになる方もいると思います。 確かにそのようなことは可能ではありますが、作編曲家と委嘱者の将来の信頼関係に繋がりますので作編曲家はきちんと考えるはずです。 ちなみに、私は楽譜浄書家としても活動しており、楽譜の見た目や使いやすさに関するこだわりもあり、適切な配分になるようにしています。 フルスコアはA4サイズで3mm(吹奏楽)、4mm~5mm(室内楽)、パートスコアは6~7mmが適切なサイズと考えており、私の楽譜はそれらに準拠しています。

先に、オプション業務についてご説明します。 オプション業務は以下のような事が考えられます。
・急いで作って欲しい(他のスケジュールに影響する納品日を提示された場合)
・(原曲の)歌詞を入れてほしい
・著作権編曲許諾申請代行(私の場合、10000円+実費で行っています)
・制作した楽曲の演奏指導、本番当日の初演立会
・初演後も演奏権を独占したい(無期限または期間限定)
「仕事を頂いたお礼のおまけでも良い」という作編曲家さんもいるかと思いますが、これで赤字になっては本末転倒なのできちんと考慮すべきです。 逆に、委嘱者に協力等を依頼して割引するオプションを設定しても良いと思います。
・納期無期限割引
・音源制作(録音、撮影)に協力して頂く
・その他

諸経費は言葉の通り、制作にかかった経費です。
・打ち合わせ代
・交通費
・編曲で使う原曲の楽譜代
・その他
実費を請求することに委嘱者から理解を得られない事は無いと思います。

作業にかかる日数を算出(工数計算)して見積もりを出す方法もあります。
例えば、人月単価(1人あたりの1ヶ月に係る価格)が80万円の場合、1ヶ月(20日)かかる仕事は80万円、1日(8時間)あたり4万円となります。つまり、1時間あたりの価格は5000円です。
人月単価は事業者と顧客の取引で使われる「値段」であり、被雇用者でいう給料(賃金)ではありません。事業経費などを差し引いた金額が、被雇用者でいう給料(賃金)に当たる部分となります。

最後に、後回しにした技術(自身が考える金額的価値)料についてです。 自分自身の技術に料金をつけるというのはとても難しく悩める項目と思います。 しかし、作編曲を仕事にしているからには自分の技術に自信を持ち、それに見合う対価をいただくべきです。 また、この項目で作品を作り出す時間(楽譜制作に入る前まで)や過去の実績や経験を考慮しても良いと思います。

作編曲家が作業に集中するために、創作活動以外のこと(マネジメント)を第三者に委託している場合もあります。その場合、フリーランス(個人事業主)に委嘱する時よりも割高になります。

以上を踏まえて委嘱料の見積もりを算出します。 作編曲の委嘱料は作編曲家によって大きく異なると思います。 同じ条件にもかかわらず、まだまだ実績の浅い私が業界を代表する作編曲家よりも高い場合もあるかもしれません。 しかし、金額を定めるに至っての経緯や詳細な条件の違いや日頃のお付き合いもあり、一概に言えないと思います。

そして、仕事を引き受けたからには責任を持って仕事をこなします。 作編曲家によって金額の違いが生じることをご理解いただければ幸いです。

以上を作編曲家に新しい作品を委嘱する際の参考にしていただければと思います。 『音楽を好き(趣味)でやっているんだよね?安く引き受けて欲しい』と言われることもありますが、私のような作編曲家は楽曲制作を通じて皆様(社会)の役に立つ事を仕事とし、それに対価を頂いて生活をしています。 作曲や編曲の委嘱を受けたら作編曲家は時間をかけて作品を考え、ひとつひとつ音を練りだして完成させます。 皆様に音楽を通じてお役に立てるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

★こちらもフォローよろしくお願いします!
Twitter
Facebookページ
YouTubeチャンネル
Instagram
YMDミュージック合同会社(私の楽譜を販売しています)