作曲家 山田悠人 公式Webサイト

作編曲家兼楽譜出版社社長が日本の吹奏楽事情に於ける音楽著作権(楽譜コピー問題)について考えてみた

(2018年2月19日追記)
先日より僕が社長を務めるYMDミュージックにて吹奏楽譜の取り扱いを始めました。
吹奏楽譜出版に至るまで、これまで長い道のりがありました。
楽譜不正コピー問題に直面することとなり、音楽出版社として皆様に納得頂ける最善な販売方法を提示しなければならなかったのです。

堅苦しい話をすると『ヤマダはめんどくさい人なのか』と思われてしまうので、先に僕についてまとめておきます。

  • 不満に思う事は言うだけでなく、実行してしまいます。
  • 今を生きる社会人なので、まず第一に社会のルールに従いながら生きる必要があると考えています。
  • 周りの皆さんが幸せにならないと自分も幸せになれないと考えているので、皆で幸せになることを考えようとしています。
  • プロフィール写真を見ると怖そうですが、怖くないです。

現在、ほとんどの国内吹奏楽出版社はフルスコア(スコア譜、総譜)とパートスコア(パート譜)が各社指定枚数同梱されたセット販売のみを行っています。
最近では、フルスコアを単品で販売する出版社が出てきましたが、それでもわずかです。

楽器編成という観点から見た日本の吹奏楽事情

そもそも、吹奏楽は”編成”に関して他の楽曲には無い特殊な事情があります。
日本の音楽界に於いて、吹奏楽は教育現場、特に部活動やアマチュア音楽家さんが気軽に楽しめる身近な存在です。
これらの吹奏楽団体は、仲の良い仲間や有志が集まって音楽団体を結成される事が多く、プロフェッショナル吹奏楽団のように楽器編成に関して楽器編成のバランスを整えずに(あるいは全体の人数を制限するまで)結成することが今の日本の吹奏楽界では多いと思います。

各吹奏楽作品には作編曲家が指定する編成(演奏者数)がありますが、日本の吹奏楽事情だと作編曲家が指定する演奏者人数では無く楽団員全員が演奏に参加する事がほとんどだと思います(吹奏楽界に於ける年1度の大イベント吹奏楽コンクールに於いても舞台で演奏可能な人数の上限指定はあっても楽器毎の人数指定に関する規定はありません。)。
故に、同じ吹奏楽作品であっても演奏毎に演奏者人数が異なるという事態が発生します。

近年では”最低X人で演奏可能な吹奏楽作品”や”任意の管弦楽器で演奏可能な吹奏楽作品(いわゆるフレックス作品)”という、言い方を変えれば編成にこだわりのない作品が増えています。
私自身もフレックス作品を編曲したことはありますが、編曲した感想は「編成という音楽を構成する重要な要素の束縛がないので芸術的に追及できない」というものでした。
私はこれらの作品は、例えば結婚式のような、演奏者を指定することが出来ないビジネスシーンでは有用と考えます。
しかし、繰り返しになりますが、楽器編成やそれの人数は音楽作品に於いて重要な要素の1つであり、それにこだわりのない作品は音楽を構成する重要な要素の束縛がない作品と言えるので芸術的追及の限界があると思います。
(念のために、上は私の吹奏楽編成に対する考え方であり、編成にこだわりを持たないことが悪いということではありません。当然、これによって新しい吹奏楽や音楽の可能性の発見につながると思いますし、それの芸術的追求をする作編曲家さんもいらっしゃると思います。)

私の吹奏楽作品の編成はというと、楽器を指定したまでで楽器ごとの演奏者人数の指定は行っていません。
私の中では作品ごとに各楽器の理想人数はありますが、日本の吹奏楽事情を踏まえ、最低でもきちんと楽器の抜けが無く(私が指定したオプショナル楽器のみ許容、下記説明有)演奏者を揃え、演奏者同士でバランスを取って頂ければ良いと考えています。
また、楽曲によってはオプショナル楽器、指定された楽器を省略しても演奏可能という編成の作品もあります。
あくまで演奏が出来るだけであって、オプショナル楽器に指定された楽器があるか無いかで印象が違うように作編曲しており、あってもなくても良いという考えで作編曲はしていません。
今後、さらに芸術要素を追求するために楽器ごとに人数を指定した吹奏楽作品を作編曲する可能性はあります。

話が逸れてしまいましたが、以上を整理すると「日本における吹奏楽演奏は楽器編成を守るまでで、楽器構成人数等は演奏団体の判断によって決められたり、作編曲者が委ねたりする場合がほとんど」ということです。
しかし、日本の多くの吹奏楽譜は作編曲者や出版社が指定する人数分のパートスコアを封入したセット販売のみが大半であり、これは現場にあった販売方法とはいえず、故に日本の吹奏楽界において楽譜の不正コピーが起きやすい状況になっていると思います。
私はこの現状に対応した楽譜販売の在り方を考えることが楽譜出版社が主体となったより良い音楽文化発展への活動ではないのかと考えます。

日本の吹奏楽に於ける音楽著作権問題に関する考察

1.必要な楽譜だけを取り揃えることが出来ない

音楽を楽しむ皆さんは一度は『不正コピーは止めましょう』という話を聞いたことがあると思います。
簡潔に言うと、権利者の許諾を得ずに楽譜をコピーすることは不正コピーだと考えていいと思います。
その例外の一例として、著作権法30条に私的利用のための複製ならば著作権者の許諾を得ずにコピーをしても良いと定められています。
その条文には『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において(後略)』とあります。
これを『演奏団体内のコピーはOK!よって足りないパートスコアをコピーするのはOK!』という解釈をされている方がいらっしゃいましたが正しくはNGです、基本的に演奏団体が個人や家庭に準ずる範囲とは言えないからです。
となると、不足分のパートスコアを買わないといけないのですが、現状、パートスコアのバラ売りを行っている出版社がほとんどないのです(個別対応をしているのかも知れませんが…)。
(音楽著作権管理団体(JASRAC等)管理楽曲の場合、管理団体を通じて出版利用申込を行い、使用料を払った上でコピーをすることも出来ます。まずは出版社に問い合わせてみましょう。)
つまり、現状の吹奏楽譜は”バラ売りがされていない楽譜を買いたい場合は必要以上の楽譜が同梱されたセットを買わなければならない”のです。

2.楽譜を団体で所有する事が前提の販売方法であり、現状に合っていない?

セット販売は本来まとめ買いを促し、個別に揃える手間を無くす販売方法です。
特に、演奏団体の所有物として購入する場合はセットで購入する方が良いでしょう。
しかし、一度演奏で使った楽譜は自分の財産として持っておきたいですよね?
出版社がバラ売りを実施すれば、少ない負担で個人で楽譜を購入する事が可能となり、フルスコアやパートスコアを個人の財産として持つ事が出来、不正コピー問題にならないのでは…という結論に至りました。
団体で(何人かでまとまって)セットで購入し、(割り勘して)それぞれに楽譜を分けるという方法もあります。
YMDミュージックのアンサンブル作品の”フルスコア演奏者分販売”はその考えが元になっています。
指揮者がいないアンサンブルの場合はフルスコアを演奏者全員が持ち、各々が楽曲の理解を深めるためのサポートとして、この販売方法を実施しています。
また、楽譜一式を演奏団体がライブラリとして保管する方法は非効率ではないのかという事も見えてきました。
フルスコアやパートスコアがバラ売りされているならば、楽譜一式を楽団毎に保管するのではなく、フルスコアのみを閲覧用や選曲用として保管し、演奏する際は個人で、または楽団で演奏者分をまとめて購入する方がプロアマ問わず多くの音楽愛好家が音楽を楽しむ現在の音楽事情にあっていると考えます。
フルスコアだけを演奏団体で所有するとなるとセットで所有するより保管場所が少なく済みます。

3.バラ売りがされていない楽譜は1部あたりの価格を知ることが出来ず、その価値が分からない

これまで書いたとおり、現在の主たる販売方法はセット販売のみです。
逆にバラ売りが実施されていない楽譜については、楽譜1部あたりの価格が分からない(楽譜1部あたりの価格を元にセット価格の価格設定がされていない)ということになります。
例えば、YMDミュージックのように「パートスコア1部150円とします!」と明確に価格が示されていたら、不正コピーをする際に何か感じることはないでしょうか?
たとえパートスコア1部(1枚)でも楽譜、著作物です。
楽譜が手元に届くまでに、作曲者はもちろん、楽譜を管理する出版社、印刷業者等、様々な人が関わっており、それらの人々に対価が支払われます。
つまり、楽譜1部の価格が示されていない事によって、その価値が分からず、感覚(楽譜の重み)を麻痺させているのではと考えています。
海外出版社や一部国内出版社は各パートスコアを100円〜300円(A4サイズ2ページ)で販売しています。
パートスコアを販売することは出版社や販売店にとって在庫を増やす事になってしまいますが、今の時代はデータを保管しオンデマンド印刷することで在庫を持たないことも出来ますし、ダウンロード販売で自動化することでこの問題は解消できると考えています。
上に書いたとおり、パートスコア1枚でも著作物です。
楽譜を購入しても、原本を許可なく複製することは著作者、つまり作編曲者や出版社に本来対価として得るべき利益を減らしてしまう事になり、楽譜の高騰や創作活動を困難とする要因となってしまいます。

吹奏楽作品のレンタルスコア

近年、楽譜の不正コピーを防止するために、レンタル楽譜制度を取り入れる楽譜出版社が増えています。
レンタルスコアは楽譜を貸し出して一定期間後に返却をするので、管理にコストが掛かり価格が上がってしまいます。
使用者を出版社が把握し、不正コピーを防ぐ有用な手段ではありますが、限られた期間でスコア一式を返却しなければならないので演奏後は何も残りません。
音楽は記録や記憶に残っても、目に残る形としては残りません。
しかし、楽譜は目に残る形として残ります。
僕は楽譜は財産にしてほしいと考えているので、YMDミュージックでレンタルスコア制度を取り入れる考えはありません。
(そもそも、レンタル楽譜制度は演奏機会が少ない見込みの作品に有用な販売方法であり、多く演奏されるならば販売楽譜とした方が様々な点に於いて効率的です。多く演奏される楽譜をレンタル楽譜制度とすることは出版社の負担を増やし、演奏機会が増えれば増えるほど人件費の為に楽譜代を高くするか、何かしらの工程でコスト削減をして品質を下げる事になってしまうのではと思います)

私が取り組むべき課題

YMDミュージックの楽譜も不正コピーはご遠慮いただきたいです。
しかし、ご遠慮くださいと言うからには不正コピーをする必要が無くなるように環境を整える義務がYMDミュージックにあります。
以下に取り組むべき事を示します。

フルスコア、パートスコアバラ売りの実施

YMDミュージックは吹奏楽作品も含め基本的に全作品フルスコア単品やパートスコアバラ売りを実施することにしました。
また、弊社ウェブショップDLマーケットYMDミュージック店にて電子(PDF)楽譜として販売しております。
DLmarketはその場でダウンロード出来、必要な時にすぐに楽譜が手に入ります。
そして、ご理解頂ける(と思われる)1部120円から数百円程度の価格に設定しました。
この数百円で演奏者の皆さんは正規楽譜を手にする事が出来、売上は出版社や各権利者に分配され、新しい作品に繋がります。

パートスコア部数別セット販売

YMDミュージックではセット販売においても他社吹奏楽出版社と違う点があります。
現在の国内吹奏楽出版社のパートスコア同梱枚数は計40枚くらいが平均だと思います。
(ウェブサイト上に内訳が載っておらず、楽譜を手に取るまでわからないという出版社もあります)
少ない出版社で各パート1部というところもあります。
逆に、とある海外出版社の吹奏楽譜パートスコア同梱枚数が(同じ編成にも関わらず)80枚を超える作品もありました。
海外作品のほうが若干価格が高いのですが、 パートスコアの同梱枚数が多いので割安と考えて良いと思います。
しかし、必ずしも80枚ものパートスコアが必要といえるでしょうか?
現在の日本は、少子化の影響もあって少人数吹奏楽団体が多く存在します。
少人数ですので、予算も限られていると考えられ、人数が少ない演奏団体にとっては必要ないパートスコアを買うこととなり金銭的負担となります。
YMDミュージックは演奏人数に応じてパートスコアの同梱枚数を選べるようになっており、35人、50人、65人の各編成を想定したセットで販売しております。
不足パートのパートスコアはバラ売りを利用し入手することが出来ます。
また、アンサンブル楽譜においてはフルスコア人数分セットの販売を行っています。
例えば、4重奏の場合、フルスコア4部を封入したセットでの販売を行っており、単品で購入するよりもお買い得になるセット価格にしています。
演奏者一人ひとりがフルスコアを手に持ち楽曲を勉強したい時に利用していただきたいと思います。

YMDミュージックでは5月8日現在、拙編《ゴリウォーグのケークウォーク》を販売しています。
上に書いた問題点を解消できる販売方法を実施しています。
YMDミュージックの新しい販売方法を是非ご覧いただきたいです。

今後、この販売方法にご理解いただける作編曲家さんの作品を扱えることを願っています。
僕はYMDミュージックを通じて、より一層皆様の音楽生活が充実し、身近になり、楽譜を手に取りやすくなるように努めていきます。
といっても、僕が今までの常識を覆すことは出来ませんし、必ずしも全てが正しいとも思っていません。
作編曲家、(プロ・アマ学生問わず)演奏家、音楽を楽しむ皆様と一緒に、どうすれば音楽に関わる人々全員が幸せになる事が出来るのかを考え、改善を重ね、皆様の理解を得て、賛同する仲間を少しずつ増やしながら提案を続けていきたいと思います。
そして、他社とともに音楽文化発展に会社として寄与したいと考えています。
上の文章が日頃扱う楽譜について考えるきっかけになれば幸いです。
僕は作編曲家なので、皆様に音楽を楽しんでもらえる作品を生み出していき、同時に楽譜出版社の社長として、メンバーとともに楽譜を手に取りやすい環境を作っていきます。
どうぞよろしくお願いします。

この場を借りて、これまで本件についてご意見やご提案を下さった私の音楽仲間、作編曲家をはじめ音楽家の皆様、音楽著作権を専門とする専門家、音楽著作権管理団体の皆様に感謝御礼申し上げます。